いやはや日本への到着を前に、自分には乏しい知力を絞り出して、ありったけのエネルギーもほぼ使い果たしてしまったけれど、肝心のコンサートツアーはこれからがスタート。ここで息切れするわけにはいかないといままだ浮かない顔をしたアーティスト面々の背中を押して羽田空港を後にする。
最初のコンサートが行われる豊橋に向かうためにまずは品川へやってきた。いくつかの荷物が届かずにいて、ギターすら手元にない我々であるから、とりあえずの身軽に移動できることはひとつの光明かもしれない。いや、どこかの神様が与えてくれている憐みなのだろうとひとり苦笑いしている。
空港で時間を費やしてしまったがために、予約してあった新幹線にはもちろん乗れない。元々手元にあったチケットを後発のものに変更してほしいと窓口で乞うも、購入したもののタイプに制限があったらしく、多少の払い戻しはありながらも新たな特急券が必要と聞き更なる出費を課せられてしまう。しかし、それさえあれば目的地まで問題なく辿り着けるのだからと、もう小言ひとつ出てこない。悟りの境地というか、自分なりに視界は広がっているのであろう。
豊橋のホームに出迎えてくれているスタッフの明るい顔がトリオの面々に、そしてもちろんわたし自身にもかなりの元気を与えてくれている。お昼をかなり過ぎた時間ながらまずは地元の美味しいものをと、こころからの労いが何ともうれしい。3人のイタリア人にとってみれば、長時間を交渉と密室の中で過ごし、やっと巡ってきた歓待ムードである。まずはリラックスできる環境の中で腹ごしらえをしてもらっている。
コンサートはJR豊橋駅より歩いてすぐのところにある、穂の国とよはし芸術劇場というアートスペース、“PLAT”。ホール内は可動式の客席が250席ほど、あまり大きくないスペースがトリオなど室内楽には相応しい音響を持ち、実際、リハーサルの聴衆のいない空間を自由に駆け巡るイタリアンな音の束が何とも心地よい。
アンサンブル・クラシカ・トリオの音楽を言葉で表現することは意外と難しい。バロックからレパートリーのはじまるクラシック音楽は、メンバーすべてのベースであったオーケストラで培われた堅実さがあって、それでいながら他の欧州の演奏家では聴くことのできない自由な揺らぎがある。これは歌の国、オペラの国イタリアならではの産物であろう。奔放なアゴーギクは、ナポリ民謡、民族音楽、舞踏音楽、そしてイタリアの映画音楽を奏でる時、より大きな振り幅で揺れることになる。
豊橋ではすべてが埋まった客席より降りそそぐ喝采、続く大阪、鹿児島、そして最終の東京公演においても大盛況。フルート、ギター、クラリネット、そしてマンドリンと僅か4つの楽器から繰り出されるサウンドながらオーケストラに負けぬほどの迫力があり、何より人々のこころの琴線に触れるような極上のアンサンブルは聴くものを穏やかにそして高揚させる。
辿り着くまでは苦難の道のりであったが、一度はじまってみると何とも穏やかな、しかもトリオの音楽に癒されるかのようにすべてが滞りなく終了して、またトリオの面々も万遍の笑顔で帰路へと向かう。
イタリアへの帰着便においては、その褒美か、はたまた皮肉なのか、持ちもの何ひとつ失うことなくミラノの空港へ辿り着いている。
堂満尚樹(音楽ライター)
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ライプツィヒ・バッハフェスティバル2023
&バッハゆかりの地をめぐる!
「バッハへの旅」11日間のお知らせ
<2023年6月10日~20日>
~音楽評論家の加藤浩子氏がご案内します~
2020年に新型コロナウィルス感染拡大の影響で催行中止となった「バッハへの旅」が再開に向けてスタートしました。
期間は11日間、羽田発のトルコ航空で夜出発、夜帰着のスケジュール。主なプログラムはソロモンズ・ノット《マタイ受難曲》、ゲヴァントハウス管弦楽団(A.ネルソンス&ラン・ラン)、ファイナルコンサートはバッハ・コレギウム・ジャパンの《ミサ曲ロ短調》です。現地ではバッハゆかりの教会〔アルンシュタット、ミュールハウゼンを予定〕でパイプオルガン演奏会、アイゼナッハ・バッハハウスでバッハ時代の古楽器サロンコンサートなどもお楽しみいただけます。
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